Cultivating Soil

なぜ、私たちは山口県の中山間地域で農業を行っているのか。その理由をひとことで言えば「土を信じて、地域を耕す」ため。土は、かけた手間も、かけなかった手間も、すべてそのまま返してくれます。だからこそ、私たちは信じられます。手で触れ、種をまき、季節を待ち、やがてその手のひらに確かな実りを迎えると。
けれど、農業は規模を拡大しなければ収益が出にくいのも現実。それでも、私たちは別の未来を描いています。田畑で愛情を込めて育てた農産物をお客様が実際に味わう場で届ける。多くの農家が見ることのない「食べる瞬間」に立ち会うことで、生産と消費のあいだにある距離を少しずつ縮めていく。「育てる」と「食べる」がつながることで、農業の可能性はもっと広がる。
農業を“ゴールの先”から設計する。お客様への価値提供までを見据えて、目の前の畑を耕す。小さな畑からはじめて、大きな仕組みをつくる。その積み重ねが、地域に根づく新しい循環を生み出すのだと、私たちは信じています。

農業の生産性を高めるために、技術革新は日々進化している。機械の大型化、水を使わない米づくり、データによる最適化。最先端のテクノロジーが導入され、次の時代の農業を切り拓こうとしている。こうした挑戦は、これからの農業に欠かせない取り組みです。
けれど、日本という国は、国土の7割が山。果てしない平原が広がるアメリカやオーストラリアのように、大規模化を前提にした農業とは、土台が違う。この風土を無視して、海外と同じ尺度で“効率”や“規模”を追いかけても、きっとどこかで限界がくる。
だから、私たちは発想を180°変えたい。もともとある自然環境を制約ではなく「資源」として見つめ直す。山や丘が多く、四季があり、雨が豊かに降るこの国特有の風土。そこに広がる中山間地域の段々畑は、人と自然が長い時間をかけて築いてきた、暮らしの風景です。
生産量や効率だけを指標にすれば、条件は不利かもしれない。けれど、その環境だからこそ育てられる作物がある。時間をかけ、手をかけることでしか生まれない味や風景がある。
私たちは、農業を「作業」とは考えていません。どんな機械を使うかではなく、この土地でどう作物が育つのか。風土や土壌の個性に寄り添い、地域の環境が持つポテンシャルを最大限に引き出す。それが、私たちの考える“これからの農業”です。
ファイブスクエアが農業を通じて目指すのは、「地域環境のパフォーマンスを最大化する」こと。農産物には、それぞれの土地の個性と魅力が詰まっている。だからこそ、農産物を通じて地域のファンを増やしたい。その土地に暮らす人たちが、一生懸命に作物を育て、その実りを食べることで、土地そのものが愛される。そんな循環が日本中に広がっていけば、きっともっと明るい地域が増えていく。私たちは、その未来を一歩ずつ耕していきます。
いまの日本の農業は、全国どこでも同じ品種を同じ方法で育てようとしています。けれど、土地ごとに気候も、地形も、土の性質も異なる。本来、作物の育ち方には“その土地だけの最適解”があるはずです。だから私たちは、どこでも通用する一般論ではなく、地域ごとに最適な「育て方のデザイン」を探っています。
各地で長年、農業に携わってきたベテランの農家さんたち。その経験の中には、地域固有の知識や感覚が、データのように蓄積されています。私たちは、その知を受け継ぎながら、新しい技術や、今の感性、これからのビジョンを掛け合わせる。世代や地域を超えて、農業に新しい化学反応を起こしたいと考えています。
そして、農業は「育てる」だけではありません。「食べる」ことでも、地域に貢献できる。どんな土地で、どんな人たちが、どんな想いで育てた食材なのか。その背景を知り、選んで食べることが、地方を応援することになる。生産と消費、そのすべてがひとつの循環の中にある。私たちは、そんな“食の共創”を全国に広げていきたいと考えています。
「農」と「人」を育て、経済を循環させるためのキーワード、それが「地産外商」。地域で生まれた農産物を距離の離れた都市まで届け、消費してもらう。地方の農業と、都市の食。その二つを掛け合わせることで、新しい循環が生まれます。
地方には、0から1を生み出す力があります。自然や風土、地域の人々の知恵から、まったく新しい価値を生み出す創造力。けれど、それを1から10へと広げていくには、別の力が必要です。多くの人が暮らし、発信力や流通網を持つ都市こそが、その役割を担える場所。
つまり、地方と都市のどちらが上でも下でもなく、それぞれに違う価値がある。地域が“つくり”、都市が“ひろげる”。その関係があって初めて、日本全体の農業と食が豊かに循環していく。
私たちは、その往復の中に未来を見ています。「共存共栄」という理想を掲げ、地域と都市、農と食、生産と消費、そのすべてをつなげながら、全員で一緒に、次の時代の農業を育てていきます。
ファイブスクエアの原点は、飲食業にあります。「お客様のより良い生活のために、価値を提供する」。その姿勢こそ、私たちの出発点です。だからこそ、農業に取り組むときも、“つくりたいものをつくる”ではなく、“お客様にどう価値を届けるか”という視点から、すべてを考えます。
生産・加工・流通、その先にあるのは、食卓での体験です。どういう店舗で、どういうサービスとして届けるのか。その「出口のデザイン」まで含めて構想しなければ、真の意味での循環は生まれません。だから私たちは、事業全体の輪郭を描いたうえで、農業にも真摯に向き合います。
20年前から推進されてきた「6次産業化」は、一次産業の新しい可能性を開いた重要な取り組みです。生産(1次)に加えて、加工(2次)、流通・販売(3次)までを一体的に行うことで、農産物の付加価値を高め、地域経済を支える。その理念には大きく共感しています。
けれど、「一次産業を応援する」という目的だけを追うと、いつのまにか“つくりたいものをつくる”ことが目的化してしまう。結果として、需要に届かない商品や、価値の薄いサービスが生まれてしまうこともある。そこには、食べる側=お客様の視点が抜け落ちてしまっているのです。
だから私たちは、もう一度原点に立ち返ります。「お客様に、どんな価値を提供できるか」。その問いを起点に、農業にコミットする。
そして、6次産業化の“その先”へ進みたいと考えています。農園では作物を育て、加工を行い、それを自社の飲食店で提供することで、農産物の価値を“体験”として伝える。一次(農業)と二次(加工)を足し算し、三次(飲食)と掛け合わせる。1×2×3=6ではなく、(1+2)×3=9。私たちは、“計算の仕方”ではなく、“公式”そのものを変えていきたい。
その発想から生まれたのが、私たちが目指す「9次産業化」という新しい仕組み。農業と人、地域と都市。それぞれが一緒になって動き出すことで、地域環境のパフォーマンスを最大化していく。それが、ファイブスクエアが描く、次の時代の農業のかたちです。